日別アーカイブ: 2013年9月17日

夜の訪問者1982  フランクフルト(独) 1

1. 夜の熱気の中で

 『ラインゴールド号』をマインツ駅で降りてフランクフルト行きに乗り換えた。アムステルダムから一緒になったS嬢はそのままミュンヘンに向かい、そこで友人と合流するという。それを淡々と見送り、いとこに会うというY夫妻とともに乗車して30分ほどで到着した。
 ホームで待ち合わせの夫妻とも別れ、両替所とインフォメーションセンターでいつもの仕事をいつも通り済ませた。そこで紹介されたビジネスホテルを3泊予約して手数料込みで150マルク。トイレ、シャワー、朝食付きでこの値段なら、いわゆる“チーパー・ワン”ではないが、決して高くはない。格好は相当に薄汚れてきているが、バックパッカーではないということで、そこそこの宿を紹介してくれたということなのかもしれない。
 なるべく目的の駅には午前中か、もしくは午後の早い時刻に到着することにしている。おいおい寝台列車での移動が多くなり、それはそれで宿代の節約にもなるが、それも程ほどにしないとやはり疲れる。結局、分不相応の高いホテルのご厄介になって、一日寝ているというのでは元も子もない。
 それよりも暗くなってから初めての街で宿を探すというのは実に心細いことで、妥協もしがちになる。宿探しも旅の愉しみのひとつとして、じっくりと希望に合ったものに行き当たるまで粘る。もっとも、これもやはり程ほどにしないと、『インフォメーション』でうるさがられて、親身になってもらえないことにもなりかねない。言葉の問題もあって端から無理はしないけれど...
 今にして思えば、この時ベルリンの壁崩壊間近ということで、殊にドイツ社会は騒然としていたに違いないが、暢気な旅行者には、駅の周辺でやけに多くの若者が蠢いている印象を持つ程度だった。それでも暗くなるにつれて、その雰囲気は暴力的な空気すら帯びていくのを感じていた。
 もしかするとこの時点では、渦中にある人たちにしても、誰も何が起きるのか見当がつかなかったのかもしれない。
 ホテルのロビーで休んでいたら、昼間のビールが効いてきたのか、突然猛烈に眠くなった。部屋に戻って少しだけ横になるつもりがすっかり眠り込んでしまった。目覚めると夕食にしても少々遅い時間になったが、とにかくホテルのレストランに行ってみる。
 まだまだ盛況で、凝りもせず再びビール、もう徹底的にビール、そしてチキンのワイン蒸し(英語で“カルテ”にチキンだとか、ワインだとか書いてあったので注文したら、出て来たものがこれ)を食べる。ビールを更にお代わりして28マルク。帰りに30マルク支払うと1マルクコインを1個と、50ペニヒコインを2個がおつり、要するに50ペニヒ2個はチップ用にしてほしいということらしい。「ダンケ」と言っておつりを全部渡す。粋ではないが、疲れもピークで傲慢な態度とも言えないだろう。