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『TVディナー』

TV_dinner TVディナー
 35年前という大昔、“サイトシーイング”でロサンゼルスに行った折、東京でいうとハトバスであるところのグレイラインといったかな、地元の観光バスの半日コースの中から『ハリウッド-ビバリーヒルズ』を選んで利用した。ガイド兼運転手のワンマンバスで、「右て(だった?)に見えますのがビリー・ワイルダー監督の家です」との紹介があって、ビックリしたことを今でも覚えている。ほとんど意味不明のアナウンスの中で、ここだけ聞き取れたのは奇跡で、もしかするとこちらの思い込みで、そう聞こえたに過ぎないのかもしれないが、すでに確かめるすべも無い。
 さて、大好きなこの監督の作品といえば、なんといっても『アパートの鍵貸します』であります。上司に我が家を浮気の場所として提供し、C.C.バクスター氏(ジャック・レモン)は徐々に出世(保険会社の社員で、出世するごとに席が前方に移動し、やがて正面の個室に入る)していく様が面白く、やがて“お得意さん”になる筆頭役員の“彼女”が憧れのフラン(シャーリー・マクレーン)だったショックに打ちひしがれるものの、そこはさすがアメリカ映画、見事な“ハッピーエンド”でまさに元気の出る映画でした。
 この映画では小物の使い方が素晴らしく、回転式の名刺ホルダー、スパゲティをお湯からあげるためのテニスのラケット、大量の酒の空き瓶、エレベータガールが合図に使うあれはカスタネットか、シャンパンとピストル、鍵を隠す玄関マット等など、そしてなんといっても“衝撃的?”だったのが『TVディナー』。肉、マッシュポテト、ミックスベジタブル、デザートなどがセットになっていて、天火で30分あたためる(『グルメのためのシネガイド』淀川長治・田中英一・渡辺祥子著/早川書房より)のですが、その間に身の回りを片付け、あったまったTVディナーのカバーを外し、シャカシャカとつつきながら、テレビのチャンネルをチャカチャカと回すわけです。ドラマの始まりを告げるにふさわしい、これひとつで作品全体を語り、“締める”まさに逸品でした。