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重厚長大!実は見掛け倒しで、虚仮威しの“権威”に立ち向かう“コソ泥”たちと、思いのほかの結果と波紋  鑑想記#077

ブリンクス【1979/米・イスラエル】

077BRINKS

 近所のとぼけたオヤジがちょいと裏の銀行まで出掛けて行って、まんまと強盗をやってのけ、事の重大さに当の本人たちも、そして周りの人間たちもびっくり仰天、あわてふためくといった、何ともふざけていて、しかも人間味溢れた作品だった。
 ドジで少々間の抜けたコソ泥たちがちょっとした弾みで一緒になって、難攻不落といわれた“ブリンクス金融警備会社”の集金所に、文字通り裏口からコッソリ忍び込んだ。ところが難攻不落とは名ばかりで何とも杜撰な警備、扉の鍵なんてトニー(ピーター・フォーク)にとってみればオモチャ同然、難なく奥へ奥へと、気がついたら大金庫の前に立っていた。この辺りに、しかめ面して内容の伴わない体制に対する風刺が見られる。しかし、流石に大金庫だけはそうそう簡単にはおとせない。スペッキー(ウォーレン ・オーツ)などはバズーカ砲でぶっとばせなんて物騒な事を言い出したけれど、やっぱりスマートにやろうって事になり、係員が 金庫の扉を閉める寸前を襲うことにした。さていよいよ本番、下見の時と違って少々手間取ったが、それでも何とか関門突破、270万ドルを手に入れた。大物でも何でもないコソ泥たちが、自分たちのやった事の重大さに驚き、戸惑いながらの狂気ぶりは圧巻 だった。
 それなのにあと6日の時効を待つことができなくて自白してしまった仲間を恨みもせずに、彼らはおとなしく“縛”についた。それもまた、彼らがコソ泥なるがゆえに見せた覚悟と友情の表現であった。裁判所に入るトニーたちを迎えた群衆もまた彼らが親しみの持てる街の仲間であり、同類であったために、わが町内から出た名士を迎えるがごとく「英雄万歳!」と惜しみない拍手を 送ったのだ。
 ピータ・フォークはまるで水を得た魚のように生き生きとスクリーンを走り回り、もうこの仕事が愉しくて愉しくて仕方がないといった活躍ぶりだった。少々演技オーバーの感もあったが、十分にその味を出していたといえる。それにしてもこの男、どこに でもいるような貧相なオヤジといった雰囲気で『刑事コロンボ』と同様、スクリーンに登場するだけで、観る者を喜ばせてくれる。 ただし、コロンボと違って、今回は動きがあった分彼の演技がかなりうわついたものとなり、登場人物の中で一人浮き上がってしまった。まあこれは彼の頑張りすぎと解釈しよう。期待通り、スペッキー役のウォーレン・オーツは何と言ってもこの中では珠玉であった。刑務所の中で見せたあの焦燥の表情、『デリンジャー』以来久々の対面だったが、やはりただ者ではない、あの強烈な演技力には脱帽である。
 裏町のコソ泥たちが起こした分不相応な大事件に周囲が上を下への大騒ぎをするといった単なるコメディともとれる作品だったが、そこは巨匠ウィリアム・フリードキン、その中に、ブリンクスを中身のない体制に見立てて風刺を効かせ、仲間たちの扱いに も気を配っている。しかしそれにしては、若干の物足りなさも感じる。終始コソ泥たちの活躍と男たちの安っぽいかもしれない 友情にテーマを絞って展開したほうが“骨”は頼りないが、もっと楽しい作品になっていたかもしれない。フリードキン監督でなくてもよかったかもしれない。

 今は亡き、コロンボこと(といっても過言ではない?!)ピーター・フォークに垣間見えるコロンボからの脱却への執念は、ショーン・コネリーのあがきと信念に通ずるものがあったと、封切りの後30年以上を経て、改めて思い起こさせる。