健診後、胃カメラを飲めというので、有無を言わせず喉に弱い麻酔液を流し込まれて覚悟した。「飲め」と言われた時点で根拠のない“覚悟”をしたものだが、“結果発表”までの一週間、己が神経のか弱さをいやというほど思い知らされた。強がって「好きにしてください」などとふざけて言ってみたら、医者は「本当にいいんですか?」なんて脅すものだから、その後はもう何も言えなくなってしまう自分が余計に情けない有様と成り果てた。改めて医者の口をついて出てきたのは「胃潰瘍が治った跡がありますね」だった。思い当たる節はある、二〇年ほど以前、最初に務めた会社を辞めて一人旅に出かけ、そして戻ってきてからのこと、電車に乗ると吐き気がし、今更子供のころの乗り物酔い癖がぶり返したかとあきれたものだが、突如煙草が吸えなくなり、禁煙というより、有難いことに?受けつけなくなってしまった。とはいえ病院に行く事もなく、知らず知らずのうちに何事もなかったかの如しで、時が過ぎた。それでもピロリ菌なるものが居るとの診断で、薬を服用してそれを退治したものだが、それからまた十五年が過ぎた。胃潰瘍もピロリ菌も“表面化”してその後対処したりしなかったりで、現在に至り 端々に不具合を感じながらも、どうしたものかとにかく生きている、そして還暦を過ぎ、一部年金受給者とは相成った。