これぞ『昭和』!という歌にまた出くわした。「哀愁の街に霧が降る」このタイトルだけで昭和歌謡の代表として資格充分、歌詞など要らないくらいだ。これもまた何処かでやはり聴いたことがあるような、記憶の片隅にあったようななかったような、全ては“霧の中”だが、じっくり聴いてみると、やはりどうにも浸みるのである。
作詞 佐伯孝夫
作曲 吉田 正
歌 山田真二、久保浩
日暮れが青い灯つけてゆく
宵の十字路
泪色した霧がきょうも降る
忘られぬ瞳よ
呼べど並木に消えて
ああ哀愁の街に霧が降る
花売り娘の花束も
濡れる十字路
のこる香にあまく思い出す
過ぎし日のあの夜は
カラーフィルムのコマか
ああ哀愁の街に霧が降る
せつなくふるふる身も細る
霧の十字路
窓を洩れくる唄もすすりなく
なつかしのブローチ
肌につめたく沁みて
ああ哀愁の街に霧が降る
「過ぎし日のあの夜は カラーフィルムのコマか」は今では笑ってしまうフレーズで、もしかすると“今の人”ではイメージすらわかないかもしれないが、当時はさぞかし洒落た表現だったのだろう。わが故郷では、霧は決まって冬の、予報では晴れの日の午前中に大川を流れ下る“風物詩”だが、古い日本映画の場末の酒場街では、毎晩の定番現象なのである。