月別アーカイブ: 2019年5月

こんな映画を観てきた[13]

   『シシリアン』(1969/仏/アンリ・ヴェルヌイユ監督)

 サーテット(アラン・ドロン)は、獄中仲間から手に入れた宝石強奪の仕事の話を、ビットリオ(ジャン・ギャバン)にもちかけた。心動かされた彼は、パリからニューヨークへ宝石を運ぶ飛行機を襲うことに決め、まんまと何億ドルという宝石を略奪してしまう。仕事が終った後、シシリーへ帰る支度をしていたビットリオは、孫の口から、サーテットと息子の妻であるジャンヌ(イリナ・デミック)に浮気の事実があったことを聞いた。シシリー人の面目を汚された彼は二人を射殺するが、電話を傍受していたル・ゴフ警部(リノ・バンチュラ)が、今度は彼の帰りを待ち受けていた。
 アラン・ドロンとの共演を打診されたジャン・ギャバンは、やつをぶち殺す役ならやってもいいと言ったとか、冗談だろうし、それもまたキャンペーンの一環だったのかもしれないが、とにかくその通りの結末となった。音楽はまさにエンニオ・モリコーネ、“大河ドラマ”であるかどうかは別にして、ストーリー、そして音楽ともに『ゴッドファーザー』の基になったような映画である。いわゆる“大作”ではないが、個人的には断然『シシリアン』をとりたい、リアリズムの追求はそれはそれで結構なことではあるけれども、圧倒的にこちらの方が“ファンタジー”である。フィルム・ノワール、こうしたある時代のジャンルを識別しやすい作品は観ていて安心感(?)があって、愉しさだけが後味として残るのだ。

こんな映画を観てきた[12]

   夜の大捜査線[1967/米/ノーマン・ジェイスン監督]

 “私の好きな映画”をあげるとすると、“ミステリー&サスペンス部門”(?)で文句なくベスト5に入る作品である。
 ニューヨークの敏腕刑事チッブス(シドニー・ポワチエ)が、南部の町で起きた殺人事件を、強烈な人種偏見と闘いながら解決するまでを描く。原題の『In the Heat of the Night』の素晴らしさに対して、何と陳腐な邦題!そこを除けば、クインシー・ジョーンズの音楽を含めて、全てが一級品だった。とりわけ印象に残ったシーン、事情聴取に訪れた“無礼な”黒人刑事を叱りつけるようにその頬を張る農場主。対して、チッブス刑事は“見事に”張り返すのだ。思わぬ反撃を受けた農場主は、恥ずかしさに、そして情けなさゆえに泣いてしまうのだった。ここに監督の想いの全てが込められているのでは…、警察署長(ロッド・スタイガー)との、何とも繊細な絡みと合せて、何度観ても新鮮な痛快感、爽快感に浸らせてくれる作品である。列車の窓越しに主役を置いて、そこからカメラを引いて動く列車が小さくなっていき、そしてエンドロール。あれはどのように撮影されたのか、当時(といっても既に封切りではなかった…)映画評でも話題になったとの記事に接したような記憶がある。

「東京」

 「東京」といえば、マイペースの「最終電車できみにさよなら・・・」なのだが、個人的には…。こんな「東京」もあった。1993年(平成5年)のリリースというから、昭和の歌ではない。しかしその匂いは充分にあって、こちらもどうにも“沁みる”のである。やしきたかじん、ご存命中は、特にファンということでもなかったけれど、まことに失礼ながら、確かな歌い手(歌われていたことは知っていたが…)であったことを遅まきながらこの歌に出会って知ることとなった。

  作詞 及川眠子
  作曲 川上明彦
  歌  やしきたかじん

 あんたとなら いつ死んでもかまわへん
 忘れないでそんな女いたことを

 見上げた空さえも冷たい色やけど
 あたしが本気で惚れたひと
 そう生まれた街やから

 いとしさも 憎しみも
 すべてすべて ぎゅっと抱きしめ
 祈るように 今日も灯がともる東京

 夢だけ見て生きてるような あんたやった
 いつかあたし待つことにも慣れてたよ

 くすんだ風のなか肩よせ暮らしたね
 誰にも似てへんひとやけど
 本物の愛をくれた

 悲しくて 悔しくて
 泣いて泣いてばかりいたけど
 かけがえのないひとに逢えた東京

 痛いほど好きなのに
 なんでなんで 別れたんやろ
 いまもまだ 胸の奥揺れる東京

 悲しくて 悔しくて
 泣いて泣いてばかりいたけど
 かけがえのないひとに逢えた東京

 大阪弁の東京の歌というのも奇妙だが、東京で出会った男への思いを大阪の女性が歌ったものということで、沁みる程に何の違和感もない。
 さて、西国生まれの身としてはかくのごとく西側から東京を見た歌をどうしても贔屓にしてしまう。前出のマイペースの『東京』もそうに違いない、最終電車は東海道本線だと勝手に思っていたのだが、歌い手の出身が福島と後に知って、実はその“東京”は上野駅であったかと正直少々がっかりしてしまった。太田裕美の『木綿のハンカチーフ』では「東へ向かう列車で…」とあるから、これは明らかに西から東京を見ている。大阪限定というのも馴染みがあるかというとそういうこともないが、東京はやはりどうしても西から見ていたいのである。もちろんあくまでも個人の“見解”である。