個別PR型のものに対して、広域(全国渡り歩き)型ご当地ソングという“ジャンル”、特定の街、或いは地域からの格別な支援は期待できないが、旅好き、地理好きにとってはまことに贅沢な唄である。そういう意味では、既に売れていたりする歌い手の力量に頼らねばヒットは難しいものなのかもしれない。
さて、『盛り場ブルース』(森進一)、銀座、赤坂、六本木で幕が開き、渋谷、新宿、池袋で閉じるわかだが、その間に北は洞爺、すすき野、定山渓(北海道)、青葉、国分、一番町(仙台市)、栄、今池、広小路(名古屋市)、南、曾根崎、北新地(大阪市)、薬研、八丁、本通り(広島市)、中洲、天神、柳町(福岡市)が並ぶ。上京、そして出張の際に有力な参考となったことは間違いない。
『中之島ブルース』(クールファイブ他)では、札幌、大阪、長崎のそれぞれ偶々存在した地名を歌詞に入れただけで、旅情のかけらもないが、よくよく繋げたものではあった。
もう一つ『ふりむかないで』(ハニーナイツ)、言わずと知れた某シャンプー(エメロン!)のためのCMソングである。小林亜星作曲で、土地土地の素人(?)美女を追いかけたカメラがストーカーになったようなものだったが、東京(ここには旅情はない)を皮切りに、札幌(ポプラ並木にちらつく雪が…)、仙台(七夕まつりの一番町で…)、名古屋(雨の今池小さなスナック…)、大阪(何を思案のこいさん一人…)、博多(那珂川ばたにたたずむあなた…)と続いた。ユーザー獲得のための企画ものだが、ご当地ソングとしての役割は充分に果たしている。
ずばり、京都から瀬戸内沿いを博多に流れる『京都から博多まで』(藤圭子)、彼女はその後『わたしは京都に帰ります』(これは当たらないだろう)ですごすご引き揚げてしまう。森進一の『港町ブルース』では、函館から南は枕崎、そして旅路の果て(?)鹿児島までを辿ったが、わが故郷に近い八幡浜のことを「やはたはま」と丁寧に唄っていて、地元では、微妙だが「やーたはま」と言ってしまったほうがしっくりしたと当時は思ったものだ