ダーティ・ハリー3[The Enforcer]
(1976/米 監督:ジェームズ・ファーゴ)
“絶対ヒーロー”に飽きて、世は“アンチヒーロー”が主役を張る時代であった(後に時代は繰り返すのだが…)。それまで正義が“単純悪”を成敗し、見方によっては闇の弱者をただ燻り出して晒し者にする情け容赦の無いストーリーが展開し、人々は喝采した。想えば構図はただただ明快、観る側としては、ジョン・ウェインがスクリーンに登場しさえすれば、拍手喝采、それで良かったのだ。
伝統的な西部劇にしろ、時代が進むにつれてかつてのような見方は許されないものとなってきた。そこで登場するのが“アンチヒーロー”、その代表がこのダーティー・ハリーなのである。役者としての行き場を失くしたクリント・イーストウッドが輝いたのはマカロニウエスタンだが、原住民と馬達が斃れるだけの見るもおぞましい?旧来の西部劇と異なり、こちらは主役が生きるために所詮倒さねばならなかった善悪を超えた“敵役”が相手(ある意味、一方の主役として格が上がった?)、高邁な意志も無く、ただ生きるために銃を使う(場合によっては知恵と工夫で何でも使う)、こちらは登場するだけで拍手喝采と言うわけにはいかない、構図としてはやはり単純といえなくも無いが、格好よくてもそうでなくても何か言わないと、しないと観る側としては納得がいかないのだ。とにかく政治、経済、社会(人種問題等など)的な要素がたとえあったとしても、そんなものは意識しないでエンタテインメントが常に先行していて、その集大成が『ダーティ・ハリー』であったような・・・そんな気がする。
このシリーズは『5』まで続くが、第1作は正直言ってあまり後味が良くない(敵役が酷すぎた…要するに悪すぎて爽快感が無かった)、警官が“正義”を“押し売り”するという『2』あたりがシリーズのメインと言えるのかもしれない。余談だが、『007シリーズ』でもメーンは『2』の『ロシアより愛をこめて』であることは万人が?認めるところだろう。『ゴッドファーザー』も同様に『2』が作品として当時格上の評価を受けていたような記憶がある。さて、個人的には『ダーティ・ハリー3』を推したい。シリーズもすっかりお馴染みとなり、ある意味安心して観られることとなり、相棒の女性刑事(タイン・デイリー…後に女刑事としてテレビドラマで人気を博す)も、それなりの存在感を示し、バズーカ砲による最終的反撃、そしてキャラハン刑事が殉死した相棒の屍を抱いてフェードアウトのラストなど秀逸であった…と思う。