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こんな映画を観てきた[36]    カサブランカ

   カサブランカ[CASABLANCA]
     (1943/米 監督:マイケル・カーチス)

   「昨夜はどこに?」
   「そんな昔のことは覚えてない」
   「今夜逢える?」
   「そんな先のことはわからない」
 立ち上がり早々の有名な台詞だ。こんなニヒルな男(ハンフリー・ボガート)の本質を解ってるよって雰囲気で、就かず離れずの位置で関わりあうのが地元警察の署長(クロード・レインズ)、ここではただのお姫様のような深味のない存在だったかつての恋人(イングリット・バーグマン)などより余程興味深いものだった。「ぼくたちにはパリがある」これも有名な台詞だが、それほど重くもないし、先のやり取りの方が作品の内容を印象付けて、伏線としても明らかに重要と言えるだろう。
 この旧い映画ができてからおよそ四〇年の後、フランスから軌道の幅が自動的に狭まる(スペインからフランスに向かえば当然逆となる)国境の駅を経て、マラガからジブラルタル海峡を渡って、タンジールから鉄道でマラケシュ、そしてカサブランカを目指すことを思ったが、長旅の疲れとちょうど開催れされていたサッカー・ワールドカップ・バルセロナ大会の〝狂乱〟に立ち向かう気力なく、ヴェニスから直にパリに向かってしまった、遠い思い出だ。

こんな唄に出くわした[12]    南国の夜

   南国の夜

     歌 :日野てる子

   月は輝く南の
   はるかなる夢の国よ
   星はきらめきそよ風
   囁くはヤシの葉蔭に

          麗しは南の国
          さざ波は群れ歌いて
          喜びつきぬ常夏の
          はるかなる南の国

 ハワイアンである。特にハワイに憧れも思い入れもなく、若い時分にはその距離以上に遠い存在、聴いたことはあるが、聴きたいジャンルとはならなかった。年を経て、スチールギターとウクレレ、そしてなんとも甘ったるい歌いようが沁みてきたのだ。スタンダードといってもよく、いろいろな歌い手による歌唱があるが、ここでは日野てる子のものをじっくり聴いてみた。『夏の日の思い出』で華々しく世に出たわけだが、こちらはあくまでも歌謡曲ということで、彼女としては〝本分〟というわけではなかったかもしれない。
 彼女、実は同郷である。女子高在学中に市内のクラブ(『銀馬車』といったか?)で歌っていたとか、そんな〝伝説〟が遠い記憶だがまことしやかに流れていたような、もとより確証はない(10歳ほどこちらが年下でもあるし、同郷とはいえクラブなどとは無縁の更に田舎に居たものとしては、いずれにせよ所詮遠い存在であった)。ちなみに、渚ゆう子による歌唱も聴いてみた。歌詞(訳詞)は違うものだが、こちらも実に沁みるものだった。彼女もまた世に出る前はハワイアン歌手であったらしい。