カサブランカ[CASABLANCA]
(1943/米 監督:マイケル・カーチス)
「昨夜はどこに?」
「そんな昔のことは覚えてない」
「今夜逢える?」
「そんな先のことはわからない」
立ち上がり早々の有名な台詞だ。こんなニヒルな男(ハンフリー・ボガート)の本質を解ってるよって雰囲気で、就かず離れずの位置で関わりあうのが地元警察の署長(クロード・レインズ)、ここではただのお姫様のような深味のない存在だったかつての恋人(イングリット・バーグマン)などより余程興味深いものだった。「ぼくたちにはパリがある」これも有名な台詞だが、それほど重くもないし、先のやり取りの方が作品の内容を印象付けて、伏線としても明らかに重要と言えるだろう。
この旧い映画ができてからおよそ四〇年の後、フランスから軌道の幅が自動的に狭まる(スペインからフランスに向かえば当然逆となる)国境の駅を経て、マラガからジブラルタル海峡を渡って、タンジールから鉄道でマラケシュ、そしてカサブランカを目指すことを思ったが、長旅の疲れとちょうど開催れされていたサッカー・ワールドカップ・バルセロナ大会の〝狂乱〟に立ち向かう気力なく、ヴェニスから直にパリに向かってしまった、遠い思い出だ。