月別アーカイブ: 2024年12月

こんな映画を観てきた[53] コンドル

   コンドル
[The Getaway]
(1975/米 監督…シドニー・ポラック)

 スパイ同士の暗躍戦を描いており、ターナー(ロバート・レッドフォード)がスタッフの昼食の買出しのためにこっそり出ていったすぐあと、突然アメリカ文学史協会(実はCIA〝アメリカ中央情報局〟の末端組織)に3人の男が乱入し、マシン・ガンでスタッフを皆殺しにした。ターナーが戻ったときは、同僚の残惨死体だけが残されていた。〝コンドル〟は彼のコードネーム。
 公開時の評価としては、あまり高いものではなかったように覚えているが、そういえば共演のフェイ・ダナウェーの印象も薄い。ただ、殺し屋のマックス・フォン・シドーの凄みだけは目立っていたような、そんな微かな記憶が残る。シドニー・ポラック監督とレッドフォードが組んだポリティカル・サスペンスとのことだが、成功作ではなかったらしい。それにしても、こういうテーマが一本の映画になってしまうのは、さすがにアメリカの懐の深さだけは今にして思い知らされるのである。
 コンドルが殺し屋に尋ねる。
 「何故?」
 殺し屋が返す。
 「〝何故〟に興味はない。考えるのは〝いつ〟と〝いくら〟だけだ」
 これをプロフェッショナルというのか?(和田誠著『お楽しみはこれからだPART2』より

こんな唄に出くわした[23]    涙の条件

   涙の条件

 特にファンということでもなかったのだが、テレサ・テン二度目の登場である。当時あまり聴くこともなかったが、年のせいという事なのかもしれない、ここにきてよく〝沁みる〟のだ。くり返し聴いても決して飽きない、耳にも優しく、何事も邪魔しない〝思いやり〟を感じる。

   涙の条件

      作詞:荒木とよひさ
      作曲:三木たかし
      唄: テレサ・テン

   帰っておいでここへ
   昔のようにここへ
   誰かと長い旅をして
   行くところ失くしたなら
   帰っておいですぐに
   上手ないい訳して
   何も聞いたりはしない
   元気で暮らしてたら

   やり直しの出来ない 愛ならば
   あなたのこと忘れていたでしょう
   ひとつだけの心の合鍵を
   あゝ捨てないで
   悲しいほどあなたが好きで
   あしたが見えない

   泣かせにおいでここへ
   あの日のままでここへ
   嬉しい涙おもいきり
   その胸にぶつけるから
   泣かせにおいですぐに
   優しい言葉よりも
   その手にふれたそれだけで
   幸福にまたなれる

   やり直しのきかない人生を
   あなたの為使ってかまわない
   生れ変わることより想い出を
   あゝ捨てないで
   悲しいほどあなたが好きで
   あしたが見えない

   やり直しの出来ない愛ならば
   あなたのこと忘れていたでしょう
   ひとつだけの心の合鍵を
   あゝ捨てないで
   悲しいほどあなたが好きで
   あしたが見えない

   悲しいほどあなたが好きで
   あしたが見えない

 とにかく、どこにも引っ掛かる箇所がない。ただただ許し許され、ゆったりと時が流れる、歌い手には失礼かもしれないが、歌詞のあるBGMということなのかもしれない。

こんな映画を観てきた[52] ゲッタウェイ

   ゲッタウェイ
[The Getaway]
(1972/米 監督…サム・ペキンパー)

 銀行強盗の仲間割れでボスを殺したドク(スティーヴ・マックィーン)は妻キャロル(アリ・マックグロー)と共にひたすらメキシコへ向かって逃げるという作品。ボニーとクライド(『俺たちに明日はない』)は凄絶な最期を迎えたが、この二人、このての映画では珍しく、逃亡に成功してしまう。
 「何も信用できない」
 「何か信用しないわけにはいかないわ」
 「我、紙を信ず。紙幣に書いてある」」
 「お金だけが信用できるのね」
 二人の会話で、どうしたわけか半世紀近くも手元に在る1ドル紙幣を眺めてみた。どこかにはあるはずだが、小さな文字がたくさんあって探すのもめんどうになった…(和田誠著『お楽しみはこれからだ』より
 バイオレンスを扱って評価が高いと言われるこのペキンパー監督、名前はよく存じ上げているが、『わらの犬』だの『ワイルドバンチ』など、個人的には決して〝好きな映画〟リストには入らない、どちらかというと避けて通りたいジャンルだ(勝手に観なければよろしい…)。それにしても結構な演者をそれぞれ使っていて、この人やはりただものではないのであろう。

こんな唄に出くわした[22]    東高円寺

 実を言うと、令和になって出くわし唄ではない、半世紀程も前になるが知ってはいた。東京に来て、初めて住み、学生時代から就職をしてしばらくの約5年間を過ごした場所である。すっかり忘れていたが、ネットで偶然目に入って聴いてみた。
 厳密には東高円寺という駅(地下鉄丸の内線)はあるのだが、どこからどこまでが〝東高円寺〟なのか曖昧なのである。そういう地名はない。とりあえず、地下鉄駅を出たところ、蚕糸試験場(現・蚕糸の森公園)界隈ということになろうか、東へ少しあるけば、地名として、北東にひろがる『中野』で、逆方向に青梅街道を進むと、環七をくぐったらもう正真正銘?高円寺ということになる。そういえば、この唄も歌詞に関しては実に曖昧、当時は気楽に飲める店が軒を並べたり、若者が集まるような場所ではなかったような気がする。地下鉄の駅を出てすぐの露地を入ると蚕糸試験場の万年塀から湧き出るように伸びる桑の木、それが尽きると区立の小学校から、同じく中学校の裏門があって、そこで左に折れて、すぐに右に曲がると、やや広めの道に出る。正面にスーパーマーケット(山手ストアといったか?)とその隣に銭湯(これは大和湯と覚えている)、そこを左に行くと女子大、右に行くと坂道の始まりに週に1、2度は夕食をいただいた『母屋』(ここのおかみさんに、実の親より先に大学の卒業証書を見せて、何かご馳走されたような微かな記憶がある)という居酒屋があって、上りきると、これも行きつけの『たんぽぽ』(一階がそば屋で、そこがたぶんオーナーであったはず)という喫茶店、それを遣り過ごして環七に至り、陸橋を渡ると妙法寺である。パチンコ屋はあった、映画館(封切館などではない)もあったが、それでもいわゆる閑静な住宅地なのであった…大きな宗教団体の本部があったり、救世軍の関連施設などもあって、日曜の夕方には楽団の小さなグループが、ラッパ吹かして辺りを練り歩いていたような記憶がある。

  東高円寺

     作詞‥吉田 健美
     作曲‥杉本 真人
     歌唱‥今 陽子

  ここでなくてはいけないなんて
  そんな理由は少しもないのに
  私は今でも東高円寺
  あのアパートで暮しています
  小さな部屋が息苦しいのは
  あなたのいないせいなのでしょうか

  気楽に飲める店は多いし
  気の合う仲間も沢山いるから
  私はこうして東高円寺
  このやすらぎにひたっています
  近頃何故か寝つかれないのは
  あなたを想い出にしたせいでしょうか

  雨の降る日は自転車に乗り
  ちょっと駅まで濡れて見たくて
  私はいつまで東高円寺
  心の中を知ってるくせに
  電車の音が気になりだしたら
  あなたを訪ねてこの街を出ます
  あなたを訪ねてこの街を出ます

 とにかく〝曖昧〟で、やや盛り上がりにも欠ける唄なのではあるが、歌詞の中に馴染みのある地名を見て、また淡々としたメロディーを聴くにつけ、とにかく沁みてきて、危うく涙さえあふれ出てしまいそうになるのだ。