「直接関係者だけの機密事項である」…鑑想記#072

-007 リビング・デイライツ【1987/米】-

007LDL
 空からのスタート。これは『ムーンレイカー』以来か?実戦かと思いきや、実は訓練(『ネバーセイ・ネバーアゲイン』と同じ)、ところがどっこいいきなり実戦突入。いささかひねり過ぎだが、これもマンネリゆえの一工夫ということだろう。ニューボンド、やや垢抜けない感じがしないでもないが、とにかくなんといっても若いし、ここは無理にでも盛り立てて(?)いかねばなるまい。期待も込めて合格点、特に気負ったところもなく、若い分動きも素晴らしいティモシー・ダルトン、まずは好調なスタートといえる。
 お馴染みのオープニング・タイトル。
 お話はまずチェコ・スロバキア(現スロバキア)のブラティスラバから、曲はモーツァルトの交響曲40番(悲しみのシンフォニー)、KGBエージェントの西側への亡命をボンドの機転で、天然ガスのパイプラインを利用して成功させるアイディアは、東と西との唯一のパイプを象徴している。気の利いた台詞を2つ・・・逃走経路を聞かれて「直接関係者だけの機密事項である」(同じ台詞でボンドがお返しして粋な台詞になった)、「KGBには女が多い」
 さてウィーンは懐かしのプラター広場。『第三の男』でお馴染みで、かつて高所恐怖症も忘れて飛び乗ったゴンドラ、映画では内部もじっくり見せてくれて(当然ボンドのラブシーン)、懐かしくも嬉しかった。当時は昼間で気づかなかったが、夜のプラター遊園地があんなに派手なイルミネーションの花園であったとは・・・、西側の退廃か、ここで人の好いオーストリア工作員の死、シリーズでは珍しく、ほろっとさせるシーンであった。
 舞台はモロッコのタンジール(タンジェ)へ。ここで真相が明らかとなり、前代未聞のKGB(プーシキン将軍)との提携ということになるのだが、’87暮れの米ソ「INF削減」の実現を暗示しているようで、まさに東西の新しい緊張緩和をイメージしたものか?
 CIAのフェリックス・ライター久々の登場だが、彼もやはり若返っていた。それにしてもボンドガールたち(最近はヒロインと区別して、ひとまとめに“ボンド・ビューティ”というのだそうだ=別枠でそうクレジットされていた)の品のなさはどうしたことか、なんとも情けない。一方今回のヒロイン、マリアム・ダボについて、エラが張っていて何やらオードリー・ヘプバーンを想わせる雰囲気だが、シリーズにあって珍しいことに、彼女はかなり活発に動いてくれている。見た目のボンド・ガールはひとまとめにボンド・ビューティにまかせておいて、メインにはじっくりと芝居をさせる、本来の路線に戻ったことも嬉しい。
 話は一気にクライマックスへ。アフガニスタンのソ連基地だが、ムジャヒディン(アフガンゲリラ)が007を助けたのでは、映画とはいえいささか荒唐無稽と言わざるを得ないが、あくまでもフィクション、物語である。
 5年前の旅を偲びつつ書いたことを、更にその28年後、二重に偲んで思い出し直している。想えば、“ソ連”もないし、東西の“壁”もなくなり、当時東西の境目であったウィーンにて、ここから先は別世界とため息交じりに行き止まりを意識したものだが、もしかるすると、見えなくなっただけで、たいして世界は変わってもいないのかもしれないと訝る2015年現在である。