「たそがれの銀座」

 『ラヴユー東京』、『たそがれの銀座』、『雨の銀座』、どれもロス・プリモスのヒット曲である。小学校から中学校に上がったころのはずだ、子供のくせに(?)こんなうたばかり聴いて、歌って、東京に憧れてしまった。このころの想いが沁みついて、もしかするとその後上京を目指し、実行に及ぶことにつながった…、いろいろあったが、実際のところ、家を出る動機なんてこんなところだったのかもしれない。それはともかくご近所が集ってバス旅行(日帰り)というものが当時の田舎では恒例行事で、移動中車内で子供がこういう歌を歌うと大人たちが喜んだ(たぶん)ものだから、調子に乗って歌ったものだろう、これがまた嫌味にうまかったりしたら、かえって雰囲気が悪くもなったろうが、こまっしゃくれてもおらず、ただ“知っている”と評価され、そしてやんやの喝采が嬉しかったに違いない。中学1年の担任が英語の先生で、詳細は霧の中だが、黒板でラビュー東京と書いたものをラヴユーであると訂正されたことをなんとなく覚えている。今にして思えば、さらっとラビューといった方が通じるのではないかとも思うが、厳しくも優しい先生で、英語教師のくせに剣道部の部長でこちらの稽古もきつかった。
 さて、銀座、上京後も足繁く訪れるようなことはなく(もっぱら新宿で)、かえって遠い存在になったような、そんな気がする。“銀ブラ”とは何か、一説によると「銀座のカフェ・パウリスタでブラック(もしくは、ブラジル?)コーヒーを飲むこと」なのだそうだが、もちろんブラブラすることだと思っていた。それはともかく、たぶんムードコーラスというジャンルがあるとすれば、このグループのおかげだろう。どろどろとしていない高級感は唄にも生きていて、貧しい若僧の身としては、名実ともに歌だけの存在となってしまった。
  『たそがれの銀座』
     作詞:古木 花江
     作曲:中川 博之
     歌:黒澤明とロス・プリモス
   ふたりだけのところを 誰かに見られ
   噂の花が咲く銀座
   一丁目の柳がため息ついて
   二丁目の柳がささやいた
   あなたの愛が目を覚ます
   銀座銀座銀座 銀座銀座銀座
   たそがれの銀座

 詞にはほとんど意味はなく、ただただ森聖二さんの甘い声に引っ張られての“名曲”なのであった、とあくまでも個人的見解。