オリエント急行殺人事件
(1974/英・米 監督:シドニー・ルメット)
「ピエール、タオルが欲しいのだが...」イスタンブール発パリ経由ロンドン・ヴィクトリア駅行き『オリエント・エクスプレス』、 2晩めのファーストクラス 寝台車にて、エルキュール・ポアロ(アルバート・フィニー)が個室の扉から顔だけ出して、車掌のピエール(ジャン・ピエール・カセル) に声をかけた一言で、厳密には間違っているかもしれないが、 とにかくこう覚えている。髭を整え、ハンドクリームを丁寧に塗り込んで、 シルクの手袋をして新聞をつまむようにページをめくり、消灯して、やがて事件の時を迎える。
演者も舞台も豪華絢爛の極致で、宮殿に派手な衣装で大舞踏会とは対極的な小さい空間で、さらに加えて旧ユーゴの山越えでの大雪に閉じ込められた深夜、 ミステリーにとってこれ以上の舞台設定はないだろう。ストーリー自体はすでによく知られていて、“謎解き”の愉しみはないが、事件前の緊張感、 そしてポアロが容疑者の一人ひとりを“平等”に追い詰めていくプロセスはさすがの演出だと思い知らされる。 “大スター”の面々、誰一人として“遊んで”はいない、 いや、手を抜いていない、むしろ“やり過ぎ”くらいだ。
それはともかく、その昔、この台詞を使いたいと乗り込んだ寝台列車(ヴェネツィア・サンタルチア駅発パリ・東駅行き)だったが、ついにそのチャンスは訪れず、 またその勇気もなかった。
「クッダイハブ サム クリーン タオルズ?」カタカナで書くとこうなるか・・・