巨大な複合都市ロサンジェルス、都市といっても、此処は周辺の郡部を併せて一つの広がりであって、実はロサンジェルスと
いう街は何処にもありません。
そういえばニューヨーク市には街という具体的なイメージがあって、その意味では性格上、ロサンジェルスは東京やロンドン
に近いかもしれません。ハリウッド(聖林)もまた然り、ハリウッド大通は確かに存在しますが、ハリウッドという地名はあり
ません。しかし聖林はやはり聖林です。
つまり、映画ファンにとってはロスの中のハリウッドではなく、飽く迄ロスとハリウッドは同列なのです。従って
ロサンジェルスというのは、概念的な地名であって、複合都市といわれる所以かもしれません。
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チャイニーズ・シアター前庭の手型、足型 レンガ色部左がジャック・レモン、右がシャーリー・マクレーン |
団体行動は御免という向きにお薦めなのが、市内の観光バス“グレイ・ライン”、此処は車なしではもうお手上げの
土地ですが、これなら確実に目的地に連れて行ってくれます、後日改めて詳しく散策するためにも最適です。
ホテルのフロントで手配してもらうと、指定の時間にバスが《お迎え》、ターミナルで一旦降ろされて、そこで何コースか
ある中から望みのコースを選び、そのバスに乗り込みます。当然、『ハリウッド−ビバリー・ヒルズコース』。
まずは何はともあれ、『マンズ・チャイニーズ・シアター』、例のコンクリートの上に残されたスターのサインと手型・足型、
その中程に周囲と違ってやや赤っぽい枠が二つ並んでいます。
シャーリー・マクレーンとジャック・レモン、二人とも1963年6月29日とありますから、時期的にいって、『あなただけ今晩は』
(1963年/ビリー・ワイルダー監督)の撮影終了直後のことかもしれません。
夢にまで見た二人の直筆を見て、万感胸に込み上げ、此処が私のアメリカなのだと、しばし立ち尽くす・・・。サインと手型、
足型の他にそれぞれ、「Mean Time」、「Magic Time」とあります。当時の二人の想いが伝わります。
バスは山中の谷間を利用して造られた座席2万の大野外音楽堂『ハリウッドボール』、此処でまたアメリカ人は底抜けに明るく
馬鹿騒ぎをするのでしょう。
続いてバスはビバリー・ヒルズへ、ロスで最も陽の当たる健康的な場所です。バスの運転手兼ガイド(つまりワンマンカー)
が「右てに見えますのがビリー・ワイルダー監督の家です」と言いますが、本当だろうか?!
リトルリーグの決勝戦、スポーツまるでダメの気弱なルパス少年が大きなフライを追って、ライト・フェンスに向かって懸命
にバックします。誰もが目を瞑ったその瞬間、ひょいと差し出したグローブに白い球が入っています。
結局試合には敗けるのですが、ルパス少年は貰った準優勝の小さなトロフィーをグラウンドに叩きつけて言います「来年は
僕たちが絶対に勝つ!」。実にアメリカ的な明るさではあります。『がんばれベアーズ』。
夕間暮れ、遠くにアメリカン・フットボールでしょうか、ナイトゲームのための照明が空を照らしています。ここは
ロサンジェルス・ラムズのフランチャイズ、ジョー(W・ビーティ)はベティ(J・クリスティ)に「もしいつか、フットボール
の選手が現れて、彼の目の中に何か感じられたら、彼にチャンスを与えてやってほしい。もしかしたら、そいつはクオーター
バックかもしれない・・・」と言って天使長の言う運命に従います。そしてラムズはスーパーボールに勝ち、感動のラスト、
久々に出会う心温まる優しさでした。
もちろんカリフォルニアの明るさだけがロスではありません。複合都市といわれるだけあって、本当につかみどころのない
不思議なところです。明るさと暗さ、喧騒と静けさ、冷酷と優しさ、常に二面性を兼ね備えています。
白人の居ない危険なダウンタウンの何処かには、いかにも「どうでもいいけど・・・」なんて言いながら、結構マメに動き
まわるフィリップ・マーロウ(『ロング・グッドバイ』)居そうです。
ハリウッドの内幕が人間の尊厳をも踏みにじる程の恐ろしさだったり(『サンセット大通り』)、ケイティ
(B・ストライサンド)とハベル(R・レッドフォード)を引き裂いたのも、所謂マッカーシズムが吹き荒れるハリウッド
でした。『追憶』。
ところでロスといえば、やはり映画の工場みたいなところ、多くの撮影所が散在しています。ユニヴァーサル、バーバンク
(ワーナーとコロムビア)、ディズニーは北側に、MGMは南寄りのカルバー・シティに、20世紀フォックスはセンチュリー
・シティです。
とりわけユニヴァーサル・シティ・スタジオには、遊園地のような見学のための設備があって、カートに乗ってスタジオの
敷地内を一周するようになっています。途中、池の中程が割れて(『十戒』のセット)、そこを通りますと、突然池の中から
『ジョーズ』が現れます。
ステージではスタッフが撮影風景を一般客も参加させて再現していますし、場内にはフランケン・シュタインや他の化け物たち
がうろうろしていて、一日楽しめます。しかし何といっても一番嬉しいのは、書割の裏側をこっそり覗いて見ることですね。
映画『1941』での日本海軍の潜水艦の攻撃目標ば何とハリウッド、この聖なる森を砲撃して焼いてしまえば、アメリカ全土
を焼き払うことができると部下が三田村館長(三船敏郎)に提案します。
夜中にあかりが点いて、メリーゴーラウンドが動き出すオーシャン・パーク遊園地を見て、思わず「ハリウッド!」の叫び
とともに攻撃指令、あとはもう破茶滅茶の大騒ぎ!
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ユニヴァーサル・シティ・スタジオ ジョーズの《造り物》 |
ユニヴァーサル・シティ・スタジオ 『十戒』のセットを再現! |
★★ 『ロング・グッドバイ』(1973年/ロバート・アルトマン監督/米)
★★ 『追憶』(1973年/シドニー・ポラック監督/米)
★★ 『がんばれベアーズ』(1976年/マイクル・リッチー監督/米)
★★ 『天国から来たチャンピオン』(1978年/ウォーレン・ビーティ、
バック・ヘンリー共同監督/米)
★★★ 『サンセット大通り』(1950年/ビリー・ワイルダー監督/米)
★ 『1941』(1979年/スティーブン・スピルバーグ監督/米)
『クワイヤーボーイズ』(1973年/ロバート・アルドリッチ監督/米)
『さらば愛しき女よ』(1975年/ディック・リチャーズ監督/米)
『ロス警察25時』『ロサンゼルス』『ハードコアの夜』『マルホランド・ラン』
『フォクシー・レディ』