006 英

哀愁の霧の街

 ヒースロー空港の長い長い地下道を進んで、地下鉄ヒースロー・セントラル駅へ、窓口で7日間有効の《Go-As-You-Please パス》を買います(これで、市内の地下鉄と赤いバスに乗り放題)。40分程でいきなりロンドンのど真ん中に到着。此処までは たいした予備知識もなくて大丈夫、ただ交通機関の標識を少し知っておくと便利です。勿論何はなくとも地下鉄の路線図だけは 用意しておかなくてはなりません。

 リバプール・ストリート駅から、地下鉄セントラル線でTottenham Court Road駅へ、そこでノーザン線に乗り換えて、テムズ川 を渡った(地下鉄だから、渡ったとはいわない?)ウォータールー駅で降りて、橋を逆に戻ります。橋そのものは今では近代的で 至極つまらない橋ですが、そこからの眺めはただものではありません。クイーン・エリザベス・ホールを除けば、とにかく古い、 見渡す限り古臭い。工事中の建物も随所に見られますが、それも古いものを古いまま残すための工事に思えてならないほどです。  此処は、あのロバート・テーラーとビビアン・リーの『哀愁』の舞台です。この橋でマイラ(リー)が己が身の穢れを恥じる ように自らの命を絶ったのです。確か、車の流れに向かって身を放り出したと記憶しています。つまり、この橋は見掛けは つまらない橋でも、旧作ファンにとっては、特別な場所という訳なのです。

 『フォロー・ミー』では人妻のミア・ファローがロンドンの街中をいろいろ引きずりまわしてくれます。特に名所という訳では ありませんが、街の雰囲気はたっぷり味わえます。他に、コベント・ガーデンといえば、『マイ・フェア・レディ』の舞台と なった青果市場の在った所。『エレファント・マン』、『小さな恋のメロディ』等も作品の出来はともかく、ロンドンが舞台 でした。最後に、旅の予備知識としてお薦めをひとつ、グレンダ・ジャクソンがオスカーを獲った『ウィークエンド・ラブ』、 ジョージ・シーガルとの絶妙なやり取りもさることながら、ロンドンの下町の雰囲気がよく出ていました。

ウォータールー橋への案内標示 ウォータールー橋よりロンドン橋を望む

 バッキンガム宮殿の庭園を横切り、ロンドン三越の前を通ってピカデリー・サーカスへ、《フィリップス》の看板の下に 《フジフイルム》、更にその下に《サンヨー》、お見事というほかありませんが、これはいかにもやり過ぎです。

 トラファルガー広場から、24番のバスに乗ってヴィクトリア駅近くのホテルに戻り、そして愈々パブへ、1杯70ペンスの ビールに似たビターを注文(やはり、ビールに似たラガーよりは格段に美味い)します。言葉など通じなくても、飲んで、 酔って、とにかく語って、夜は更けてゆきます。

 冷たくもなく、かといって過度の干渉もない、倫敦、たいして面白味があるとも思えませんが、なかなか気分の良い街です。

トラファルガー広場とナショナルギャラリー バッキンガム宮殿入口

【勝手に採点】

★★★ 『哀愁』(1940年/マービン・ルロイ監督/米)
★★  『フォロー・ミー』(1972年/キャロル・リード監督/米)
★★  『マイ・フェア・レディ』(1964年/ジョージ・キューカー監督/米)
★★★ 『ウィークエンド・ラブ』(1973年/メルビン・フランク監督/英)

[その他の作品から]

   『エレファント・マン』『小さな恋のメロディ』