広場は観光客で埋まってしまった。毎日午前11時に、旧市庁舎のからくり時計が動き出す。いつものようにまず人形が鐘を叩いてショウが始まった。
 音楽を伴って、2段あるバルコニーの上の段では小人たちが踊りだし、やがて金色の騎士と銀色の騎士がすれ違った。2周したのち、金色の騎士が銀色の方を 倒した。一方下の段では、民族衣装をつけた若者たちが賑やかに戦勝祝い?
 この間5分ほどの見世物は、人形の動きが止まって、残る鐘の音が聞こえなくなっておしまい。


路面電車の走りを見ながら、ビールの大ジョッキ!

 映画館では『エマニュエル』をやっていた。何もここまで来て映画でもなかろうとは思うが、ノーカットとあれば当然ここはチェックしておきたかった。ドイツ語の字幕つきかと思いきや、これが完全ドイツ語吹き替え版で、あのエマニュエルが歯切れ良く立派なドイツ語を喋るのだった。


旧市庁舎のからくり時計




 モザイクもぼかしもない、ノーカットで見えるべきところは全部見えるが、それほど感激するほどでもなかった。日本初公開の折、渋谷の映画館で友人とふたり で満員の中、通路の階段に座ってこれを見た。後にも先にもあれほどの熱気のなかで映画をみたのは一度だけ、一部をカットしたり映像処理をしたうえで、日本の 配給会社は「ファッション・ポルノ」と銘打ち、そうしたうえで年齢制限を外して上映した。館内は女性客の数が男性客を圧倒し、女性は「ファッション」の部分 をより所として押し寄せたというが、あれは今でも大多数は「ポルノ」映画を見に行ったのだと確信していたことを思い出した。映画が始まってから席についたの で暗くてわからなかったが、終わって館内が明るくなり席を立つと、空いた中でちらほら見える客のほとんどはお年寄りばかりで、「その道」を究めた(?) マリオ(アラン・キュニー)に共感してのことか、まさかそうではあるまい、平日のこの時間、しかも封切りでもなしということであれば、まさに当然の光景だと いうことだろう、旅人の長居するところではない。


広場につづく『カールス門』

 映画館を出たところがビアホールで、つまりここを通らないと完全に建物の外に出られない仕組みになっていて、うまくできていると感心しきりだが、 ここは早々に退散して別のビヤホールへと向かうこととしよう。

 テラス席に着くと、典型的なドイツ美人が登場。とにかく「ビア」をオーダーした。カルテを読めるわけもなく、彼女が何か続けて喋るので、とにかく 「ヤーと」返すと、あきれるほどの大きなジョッキが出てきた。とても飲みきれないと思ったが、一口、二口と進むうち苦もなく飲み干せそうな気配となって いった。 髭の紳士がビールをストローで吸っていた。そのピンと撥ねた髭を濡らさないための配慮だろうが、珍妙この上ない。


泊まったホテルの“名刺”



 追加で注文したヴィナー(ソーセージ)はまだこない、ビールと合わせて12マルクはリーズナブルか、まあそんなものだろうと納得するうちにこれもまた想像 より大きなヴィナーが目の前に現れた。
 ジョッキのビールが半分ほどになった頃、隣のテーブルにいた別の紳士が自分の荷物を指差して、注文かはたまたトイレなのか「しばらく見ていてほしい」と言いつつ(そんな雰囲気で...)席を立とうとするが、厄介ごとに巻き込まれては大変と、ここははっきりと「ノー!」、ニェットというべきだったかもしれないが、妙な物を委ねられては、もしもの場合に立ち往生するばかりといった事態は避けたいので、きっぱりと拒絶したいと思った。
 尾行者は振り切っておきたい...ということで一旦駅に戻り、雑踏をやり過ごしたのちにホテルへの道を急いだ。

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